WORK

第4章 消防設備業界のルフィが目指す未来

第4章 消防設備業界のルフィが目指す未来
SHARE

消防設備点検やビルメンテナンスにおいてワーカーと発注者をマッチングさせるサービス『ビルメ』。業界が抱える人材不足問題の解消や、気軽に副業が可能になると話題になりました。そんな画期的なサービス『ビルメ』創業者の吉村社長に4回に渡ってインタビューをします!
最終回の今回は消防設備業界の未来やご自身の目標などについてお伺いします。

どんな時も安定の業界って本当?

Q1.最近は特に移り変わりが激しい時代ですが消防設備業界はどうでしょうか?

今、起きているような事だったらウクライナ戦争であったり、コロナっていうのは、この業界でも少なからず影響はあります。例えば材料。消防設備業界でも工事をするとなると材料を注文して取り付けるんですけど、半導体や消火器の粉は一部海外で作ってるものだったりします。材料が足りないのは建設業界全体で言われていますが、消防設備業界も同じですね。
また新型コロナウイルスについて、僕たちが大きく影響を受けたのは民泊の消防設備工事です。ホテルやインバウンドに関係するような工事の仕事が当時はとても多かったんですよ。僕たちはそれがきっかけでのし上がってきたようなところがあって。それがコロナになって、その仕事は全部だめになったんです。そういう意味では、普通の消防設備の会社はそこまでの影響はなかったんですけど、僕たちに関しては コロナは大きな転換点になりましたね。
基本的には、この業界で会社が潰れるようなことはなかなかないと思います。一つの建物につき半年に一回点検しなくてはいけないという法律はコロナでも変わりませんから。でもコロナが始まった初期は社会全体がパニックでしたので「ちょっと延期してくれ」みたいな形で仕事がない期間は少しだけありましたけど、やっぱり安定度は高いと改めて思いました。

価値あることをやっている人が評価される世界にしたい

Q2.消防設備業界は今後はどのようになっていくと思いますか?

この業界が圧倒的にここから伸びていくかっていうとそれはなかなか難しいのかなと思います。もちろん伸びていく方がいいですよね。消防設備点検は半年に一回一戸建て以外の建物は全部消防点検しないとダメってきまってるんですけど、実際にできているのは50%以下なんですよね。二つに一つぐらいは点検できてないんですよ。
なぜかというと、1つはオーナーさんのリテラシーの低さ。「別に消防設備点検ぐらいやらなくて良いだろう」「別に住民もなんとも思わないし、お金もかかるし」と思われている人もいますし、法律を知らない小さなアパートのオーナーさんもいます。
つまり、火災予防に関する認知度の低さ、管理意識の低さ、大きくこの2つが理由ですので、もっと点検率が上がっていくような世界になるように消防設備点検について最低限の知識を誰もが持っていたら、僕たちの仕事は増えます。だからこそ、もっと認知度を高めて市場を大きくしていきたいと思います。そうなったら今でも人手不足って言われるこの業界がもっと人手不足になりますよね。もっとこの業界以外で働いてる人たちが副業で良いので、空いた時間にウーバーで副業するぐらいだったらこの業界で働いて欲しいと思います。そうしたらこの業界の人手不足もビルメでしっかり解消できると思います。
この業界の市場規模が上がれば火災予防にもなります。消防設備や火災ってあまり身近ではないやろうって思うんですけど、年間34,000件ぐらい火災が発生してるんですよ。死者の数で言っても毎年1400人ぐらい亡くなるんですよね。なので一日あたり四人くらい亡くなっているんですよ。でも亡くならない理由として消防設備がちゃんと適切に機能していたから避難できたとか、スプリンクラーがちゃんと初期消火をしてくれたからとかそういう話はいっぱいあるんですよ。ですので、この消防設備っていう価値をまずはもっと知ってほしいです。そのための行動の一つとして芸人のザブングル加藤さんと一緒に防災イベントや地域のイベントに呼んでいただいて、トークコーナーとか消火器の使い方体験みたいなことをさせてもらったりとか、いろんな形で活動をさせてもらってます。
そういう風にして価値をちゃんと理解してもらったら、この業界は利益が広がって、働いている人の収入なども改善していけると思います。やっぱり価値あることをちゃんとやってる人が適切に評価されてそれがちゃんと返ってくる世界を作っていきたいと思います。

女性作業員でも活躍できる?

Q3.業界では人手不足が問題になっていますが、例えば女性でも作業員として活躍できますか?

女性でも大活躍できる場所がたくさんあります。建物によって需要が結構顕著にあるんですよ。例えば銭湯やサウナ、お風呂、女性の更衣室だったりとか女性のエリアっていうのは女性の作業員が行った方がその施設の管理をやってる方に喜ばれますね。他にも女性用のワンルームマンションとか女性寮とか結構あります。なので女性は働きにくいと思われがちな現場作業ですけども、この消防設備点検においては、比較的高齢の方であっても女性の方が活躍しやすいぐらい身体的な負担が少ない作業もあったりするんですよね。
女性作業員の方には女性にしかできない作業を中心にやってもらって、やはり重たいものをもったりする作業もその中でもあったりするので、男性とチームになれば効率良く動けます。
ビルメワーカーは圧倒的に男性が多いですけれども、実際に社員でも女性の方はいます。

機械に置き換えできない、人でなければならない仕事

Q4.女性でも高齢の方でも働きやすいなら人材不足も解消できそうな感じがしますね。

そうですね。まず人っていうのは絶対大事だと思うんですね。デジタル庁ができてから世の中どんどん人ではなくデジタルで点検できるようにする動きがありますけど、こと消防設備業界で考えるとなかなかそれが難しいなあっていうのが業界トップの見解でもあったりしますね。
消防設備の点検って火事になった時に動くものじゃないですか、だからそれが壊れているかどうかっていうのがわかる時は火事の時なんです。照明とか空調設備の不調は日常でわかります。でも、そうやって不調が判明する時っていうのが消防設備の場合は火事の時なんですよ。そこでもし動かなかったら取り返しつかないですよね。それも踏まえてやっぱり簡単にカメラやデジタルだけで全ての設備を点検するのはなかなか難しいですね。一部の設備や一部の作業が効率化されることはありますが、この業界ってやっぱり人が作業するのがまず大前提だなと思っています。
でも、例えば 現場に帰らなくても現場の移動中や休憩中、作業中でも、効率の良いITサービスを導入することによって、帰ってからの事務作業時間を減らせるっていうようなこともめっちゃ大事だと思うんですね。そういう効率化を図るようなDXやITの力を借りて、生産性を向上させるというサービスを僕たちもビルメ以外にやっています。僕たち以外にもそういうような会社さんはいてますけども、そういう流れやムーブメントがもっともっと起きて、この業界の生産性向上、一人当たりが発揮できる価値の量を増やしていけるようになったら人手不足にもすごく効果的だと思いますね。

消防設備業界で最も価値ある会社に

Q5.吉村社長の目標である「業界 日本一」はどんなふうに計画しているのですか?

最初は完全無計画で始まりまして。(笑)何も考えてなかったというか分からなかったんですよね。消防設備業界日本一なるって、どうやったらなれるのか全然分からなかったのですが、でもなることだけは決めたんです。
この業界で起業しようと決めたのは東京に来てから、最初はしょうがなしに始めた消防点検だけど、やってみて改めて魅力に気づいて、この業界で一番を目指そうと決めました。初めはどっかの業界で一番になろうと思っていて、どの業界にするか決めるのも物語や!ってワンピースを見て思ったんです。ルフィは一話の最初から、海賊王になるって決めて、目標をしっかり明言して物語がスタートしてるから、僕も消防設備業界で勝負するって決めたんだったら、この業界で日本一になるっていう目標を持って物語を始めようと思ったんです。
でも、その時にこうやって、こうやって、こうしようとか目標達成までの流れが全く分からなかったです。
何も分からずにスタートしたんですけれども、日々、経営者としていろんなことをする中で視野が広がってきて、業界日本一ってどういうことか自分なりに定義しました。上場している会社が何社かありますが、自分達も上場を目指して時価総額というところでも日本一を目指そうかと考えています。それが日本一というのか、人によってそれぞれ違うかもしれませんけど、一つの指標になるのかなと思います。日本一の指標が売上っていうのは違うなって思ったんですよね。売上や利益が高かったら価値ある会社なのかと言ったら違う気がすると思った時に、わかりやすい指標としては時価総額なのかなって思って。
数字的なことは自分の中のルールなので、言い方を変えると、この業界の中で一番価値のある会社になるっていうことです。売上とか利益は結局、人から感謝された量だと思うので、人に圧倒的に感謝されるような会社、WAVE1がなくてはならないというふうに日本中から思われたら、会社として成長していきますし、時価総額にも反映されていくのかなと。
僕たちは最初にこの業界でどんなサービスがあったら価値があるのかなって思った時に『ビルメ』を思い付いたんですね。スポット的な作業員不足に悩んでいらっしゃるというところでこんなサービスがあったら皆さんに喜んでもらえるんじゃないかなと思って『ビルメ』を始めたんです。今はリリースされてちょっとずつ利用される量が増えてきています。
また、通常エクセルなどで作成する消防設備点検の報告書を作成するサービス「点検エキスパート」をM&Aで譲り受けました。そのサービスをもっともっと便利にして、皆さんの事務作業を効率化するサービスを提供していきます。それ以外にも他のITサービスも準備しておりまして、そういうふうに総合的にこの業界や近しい業界であるビルメンテナンス業界など、同じような悩みを抱えている方に便利と思ってもらえるようなサービスを提供していくことで、価値ある会社として成長していけると思っています。

目標を諦めない極意とは?

Q6.日本一をずっと目指していく中で、途中で諦めたくなることはありませんか?

そうですね。悲しいことは山ほどありますよ。(笑) 何回病んだかな、何回倒産を覚悟したかなとか、そういうのはめっちゃありますよ。そりゃ、そんな順風満帆に、全部が想定通りみたいなことはありえませんし。
本当に苦しかったことを数え出したらキリがないくらいなんですけど、社内崩壊のような予期せぬ状態で社員がどんどんやめていった時期もありますし、コロナで予定していた工事案件が全部なくなった時は大変でした。一気に売上がなくなるのに固定費だけかかっていて、当時の社員が20数名いたんですけど、どう考えても食わせていけない状態になりました。その結果どんどん赤字になって、キャッシュが減っていく恐怖も経験しました。もう辛いことはいっぱいあります。(笑)
何回も精神的に狂ってしまってもおかしくないかなという状況はあったんですけど、一回だけ鬱になったことがありました。でも、今の自分から見たら可愛いなって思いますよ。(笑)それくらい心も成長しました。当時の自分からしたらめちゃくちゃ苦しかったんです。でも、これからもいっぱい大変なことはあると思うんですけど、自分は絶対日本一になるなって確信を持っているんです。
だから予期せぬことは、今までもそうだったように乗り越えていけるんだって思っています。どんなことでも全部解決できることなんだなって。基本的にはそういうスタンスで物事を捉えているので「最後は絶対なんとかなる」って精神で日々のピンチと向き合っています。‥そうは頭で思っていても、ピンチが訪れると毎回「どうしよ‥」って焦りますけどね。(笑)

簡単じゃないから面白い

Q7.吉村社長は「仕事は労働ではなくゲームだ」とおっしゃっていましたが、どういった意図での言葉でしょうか?

消防設備業界は広い目で見るとビルメンテナンス業界です。いろいろな設備メンテナンスがありますが、当時実家の消防設備会社で二代目として勤めていた時に、ビルメンテナンス業界の人たちと仕事で接していると、みんな目が死んでいたんですね。日々不平不満を言っている。そんなところにいると自分まで同じようなことを言い、同じような思考になっていくんですね。よく、自分の周りの5人〜10人くらいの平均値が自分の考えになるっていう説がありますが、それはほんまやなって思いました。そんな状態で自分も毎日「おもんないわ」って思っている時、周りのみんながゲーム好きなことに気がついたんですね。休憩の時にスマホゲームをやっていたりして。ゲームは好きだけど、仕事となると「やめたい、やめたい」と言ってるんです。
自分自身はそれから東京に行って起業しましたが、起業自体がサクセスゲームみたいになって、しんどいことも含めて楽しいなって思うんですけど、それは経営者だから楽しい訳じゃないと思うんですよ。そういう心持ちを持っていたら別に経営者じゃなくてもゲーム感覚で仕事に向き合うことができると思うんです。例えば仕事でいったら昨日より今日の方が何かスキルアップしようとするとか。日々自分をアップデートしていこうと自分の仕事をゲームのように捉えて取り組んでいくことで必ず、今までとは違うスタンスで日々を過ごすことができると思うんですよね。
僕は社長ですのでもちろんやりたくないこともやっています。取引先に迷惑をかけたら謝罪に行くとか、資金のやりくりとか。そんなことは本来やりたいことではないです。やりたいことのためにやりたくないことをやるというのは山ほどありますけど、それもゲームとして楽しんでいます。なんでもそうじゃないですか。僕はポケモンが好きだったんですけど、そんな簡単に151匹全部集めたら楽しくないですよね。そこまで苦労するからそこまでの過程が楽しい訳で。そういうスタンスで捉えて行ったらゲームのように仕事も楽しめると思います。

何をするかより誰とするか

Q8.吉村社長は「何をするかより誰とするかが大事」ともおっしゃっていましたが、それも実体験からの言葉ですか?

これも起業するときに思ったのですが、起業する前は目が死んでいるような人たちと働いていると全く面白くなかったんですよ。それでこんな環境から抜け出した方がいいと思って自分の場合は起業を選んだんですよね。そこから仲間が集まってくれたんですけど、そのメンバーと消防点検をやっていると、大阪でも同じことをしていたのに全然楽しさが違うんですよ。何でこんなに違うんだろうなと思いました。自分が経営者だからかっていったらそこじゃないんですね。やっぱり仕事は何をやるかではなく、誰とやるかなんです。これから会社を大きくしていく時にも、誰とやるかということを大切にするメンバーと成長していきたい、というのが僕が大切にしている考え方なんです。

若い労働者へメッセージ

Q9.最近の若者は「すぐに仕事をやめてしまう」などと言われていますが、このようなことについてどう思いますか?

直感的にやめたいと思ったらやめてもいいんちゃうかと思いますよ。実は僕自身がそうでしたから。最初に勤めた会社は3ヶ月でやめているんです。就職しても根性がなくてすぐにやめるという話がよくありますが、そんな感じだったんですよ。(笑)
でも、なんとなく直感的に「ここは違うな」と思ってやめて、それから1年以上ニートになって大学時代に貯めていた貯金を食い潰してしまって。それで父親から「二代目としてつげへんか?」と言ってくれたので、逃げるように父親の会社に入って、そして父親の会社もやめて、最終的には起業しましたけど、どれか欠けていたら今の自分はないかなって思うと、当時の自分を別に否定するもんでもないんかなって思うんです。
人生無駄なことはないと思うのでそういう時期があるのも1つ経験かなと大前提で思います。ただやはりこらえることによって、その後の楽しさや自分の価値を向上していけることが絶対にあると思うんです。全部の会社を3ヶ月くらいでやめていっても、そんなの何のためにもならないじゃないですか。特に20代の若い頃はほんまに頑張ったらいいと思うんですよね。若い時は圧倒的に成長できますし、耐えるということが1つの経験になりますし、自分の価値向上を考えるとやめようと思ったことをやめずに済んで価値あるスキルをつけることもできます。一人一人が自分自身の価値を向上させるためにどうするかを考えれば、もっと生産性の高いビジネスマンになれて国力も上がっていくと思います。

現場で頑張る方にメッセージ

Q10.最後に現場で日々頑張っている方々にメッセージをお願いします。

現場の中でも建設業界やビルメンテナンス業界がありますけど消防設備業界は点検も工事もあるのでどちらにも属しているんです。いろんな方々と会話する中でこれからの建設業のやり方は変わっていくと言われています。抜本的に作業が効率化されていくとか言われていますけど、その中で自分自身はどうやっていくのかということを悩まれている方も多いと思うんです。
一つ僕がおすすめするのは、いろんな業界のスキルをちょっとずつでもつけていった方がいいということです。多能工とか複数スキルとか言われていますけどそれは自分自身の市場価値を高めていく上で大事かと思います。昔は1つを突き進めということであまり好まれない考え方でしたが、今はこれもできてあれもできてというのが掛け算で評価される時代だなと思います。そういうところで資格取得の支援をしているCICさんを利用するのはいいことだと思うんですね。僕自身、資格を色々集めていた時期がありました。資格だけあっても意味がないですけど、1つのきっかけとして資格を色々とっていくのは自分の価値向上を目指すことの一つになると思いますよ。

編集後記

4回に渡り、吉村社長にインタビューしてきましたが、成功の話だけでなく、辛かったことも本音で話していただきました。どんなことにも率直に誠心誠意を持って答えてくださった吉村社長のお人柄は本当に信頼できる印象で、人から慕われ、人を思いやることもできる方なので、間違いなく消防設備業界や建設業全体をリードしていかれると思いました。吉村社長の物語はまだまだ続くので今後も注目していきたいですね!

interviewee

吉村 拓也

吉村 拓也(よしむら たくや) 大阪府出身。株式会社WAVE1代表取締役。建築物環境衛生管理技術者、二級建築士、消防設備士(甲種含む全種)資格保有。

SHARE

GENBAroo(ゲンバルー)は「現場」で「頑張る」人たちを
応援するメディアです!

人々の生活を支えるヒーローのために現場で使えて役立つ情報をお届けします。