電気主任技術者とは?10年後には深刻な人手不足になる?
「電気主任技術者って何?」
「電気主任技術者の人手不足問題について詳しく知りたい」
とお考えではありませんか?
電気主任技術者を含む電気業界は、現在人手不足に悩まされています。そのため電気保安業界では、資格保有者の積極的な採用や業務の効率化など解決策を練っている現状です。
本記事では、電気主任技術者の概要や人手不足問題について詳しく解説します。つらい部分と魅力の両方をご紹介していますので、ぜひご覧ください。
01.電気主任技術者の仕事内容とは?
電気主任技術者は、ビルや工場、発電所や変電所といったさまざまな電気設備の保安監督業務を行う仕事です。
よくある電気系統の仕事として「電気工事士」が挙げられますが、電気工事士は回路の配線や電気機器の設置・修理といった電気工事をメインに扱います。
一方で電気主任技術者は、電気設備の維持・管理・運用を目的とした点検作業を取り扱うのが特徴です。点検作業では電気設備の異常(故障箇所)を発見し、工事・停電作業の現場では保安監督を行うことがあります。
ただし、誰でもすぐに電気主任技術者になれるわけではありません。電気主任技術者として仕事に従事するためには「電験」と呼ばれる資格の取得が必要です。
02.第一種~第三種電気主任技術者の概要
電気主任技術者は、取り扱う電圧の大きさによって第一種〜第三種の3種類にわけられています。それぞれの違いは、次の通りです。
【第一種電気主任技術者】・・・全ての事業用電気工作物
【第二種電気主任技術者】・・・電圧が17万ボルト未満の事業用電気工作物
【第三種電気主任技術者】・・・電圧が5万ボルト未満の事業用電気工作物(出力5,000kW以上の発電所を除く)
引用:電気技術者試験センター「電気主任技術者って何だろう?」
第三種電気主任技術者の範囲が一番低いですが、オフィスビルや工場など多くの建築物で採用している高圧受電の電気設備を取り扱えます。
第二種電気主任技術者は第三種よりも広い範囲の電圧を取り扱えるのが特徴です。変電所や発電所など非常に高い電圧を用いた電気設備の維持・運用・管理などを扱う際に必要となります。
第一種電気主任技術者は、全ての電圧に従事できるため制限がありません。特別高圧や超高圧を扱っている設備を含め、維持・運用が可能です。
03.電気主任技術者は人手不足なの?
電気主任技術者も含め、電気業界では現在技術者の人手不足問題を抱えています。ここでは、人手不足になるとどうなるか原因とあわせて解説します。
人手不足になるとどうなるの?
電気主任技術者が人手不足になると、主に以下のような問題が発生します。
- 電気の需要に対して供給が追いつかない
- 技術者一人あたりの負担が大きくなる
- 退職や転職につながることも想定できる
電気主任技術者の数が不足すると、電気設備の数に対して担当する電気主任技術者の数が足りなくなります。要するに、需要に対して供給が追いつかなくなるということです。
結果、現状の技術者一人あたりの負担が大きくなります。筆者が勤務していた大手電力グループ会社の場合は、技術者一人あたりの担当する現場の数が増えるといった形で人手不足問題を抱えていました。
技術者の負担が増えると、次は「仕事の大変さに対して給料が少ない」といった不満につながります。その後、不満が限界を迎えて転職や退職といった流れになるでしょう。
そのため電気保安業界では、入職者の人口を増加させたり電気保安業務の高度化・効率化を図ったりすることで人手不足問題の改善を狙うといった解決策が練られています。
電気主任技術者が人手不足に悩まされている要因
そもそも、なぜ電気主任技術者は人手不足問題に悩まされているのでしょうか?主な要因としては、次の5つが挙げられます。
- 電気設備が増加し続けている
- 資格保有者が他業界の大手企業を希望している
- 知名度が低く仕事の魅力が伝わりにくい
- 2025年問題による高齢者の退職
- 資格試験の難易度が高い
それぞれの要因について簡潔に解説します。
【要因①】電気設備が増加し続けている
電気主任技術者は、事業用電気工作物の保安管理する仕事ですが毎年電気工作物は増加している傾向です。そのため、電気設備の増加に対して技術者の数が追いついていないと人手不足問題につながります。
例えば近年実施された東京オリンピックなども電気設備増加の要因の1つです。イベントに伴ってさまざまな施設が増設されて電気設備が増加し、結果的に電気主任技術者の仕事も増えます。
一般的な建物なども新規設置されているため、電気主任技術者の需要は今現在も増え続けていると言えるでしょう。
【要因②】資格保有者が他業界の大手企業を希望している
経済産業省にて掲載されている情報では、認定校の学生が他業界の大手を希望していたり、外部委託業界への入職率が低かったりすることが問題として挙げられています。
これは電験三種を実際に保有している筆者の意見ですが、電験三種を取得している技術者の付加価値は本当に高いです。
「電験三種を取得している=電気に対して深い専門知識がある」と認められるため、電気工事士業界やビルメン業界などでも資格保有者は重宝されます。
人手不足を改善するためには、いかにして有資格者が電気保安業界に従事するか対策することが必要です。
【要因③】資格試験の難易度が高い
電気主任技術者として従事するためには「電験」の保有が必要不可欠です。しかし、電験の難易度は電気系資格の中でもトップクラスの難しさに位置します。
例えば第三種電気主任技術者の仕事で必要な「電験三種」は、毎年の合格率が9%前後で推移しています。そのため、取得を目指して1年目で取得する方というのはあまり多くありません。
実際、筆者も電験三種を取得するまでに3年費やした経験があります。1年目に参考書を開いて思ったのは「電気工事士の資格と比べて難しすぎる!」といった感情です。結果、1年目は勉強にやる気が出せず不合格となりました。
電気の保安管理業務を担う仕事の都合上、試験が難しくなることは仕方ないことですが、資格の難易度の高さも電気主任技術者の人手不足につながる要因と言えるでしょう。こういった事情に対して、経産省や試験団体は令和4年度試験より実施回数を年に1回から2回に増やすなど対策を講じています。
【要因④】知名度が低く仕事の魅力が伝わりにくい
電気主任技術者は、知名度が低く仕事の魅力が伝わりにくい仕事です。筆者自身も工業高校の電気科に入学するまで電気主任技術者の存在を認知していませんでした。
実際、電気主任技術者は電気工事士と違って表立って行う仕事でもありません。電気主任技術者が取り扱う電気設備は、電気室内やキュービクルなど人目のつかない場所に設置されていることが多いためです。
先ほど解説した資格試験の難易度の高さと知名度の低さの両方を含め、電気主任技術者を目指そうとする人自体が少ないのも人手不足につながる要因と言えるでしょう。
【要因⑤】2025年問題による高齢者の退職
現在「団塊の世代」の方たちが退職する時代に差し掛かっています。「2025年問題」とも呼ばれ、団塊の世代の方たちが後期高齢者に達することで社会保障費などの急増が懸念されている問題です。
電気業界でも団塊の世代の方たちの退職は影響を受けます。経験と知識の豊富な技術者を失うことにつながるためです。
また、経済産業省によると2030年には電気主任技術者が2000人程度不足し、さらにその後も需給ギャップは拡大すると推計されています。
そのため現在、有資格者の新規採用や雇用者数を増加するといった形で対策している企業は増えています。
04.電気主任技術者のつらさ
本記事を執筆している筆者は、実際に電気主任技術者として従事した経験がありますが、その際に感じた辛さは主に次の3つです。
- 土日・休日出勤などがある
- 意外と仕事に体力が必要
- 悪天候時に仕事が増える
それぞれの内容について詳しく解説します。
土日・休日出勤などがある
筆者が勤めていた会社は、外部委託で電気主任技術者の仕事を行うものでした。技術者として担当を持ち、月次点検や年次点検を行うといった形です。
その際、現場が病院や商業施設などの場合は、年次点検が営業時間外や土日になることがあります。新規設備の竣工検査などに関しても同様です。
そのため、土日・祝日などの休日出勤も珍しい話ではありません。電気主任技術者の休日は、不定期なことが多いです。
決まった日に休みが欲しいといったスタイルを望む方にとっては、電気主任技術者の勤務形態は合わない可能性があります。
意外と仕事に体力が必要
電気主任技術者は、電気設備の点検がメインの仕事なので体力はあまり必要ないと思われるかもしれません。確かに、電気工事士と比べると必要な体力は少ないですが、それでも体力は必要です。
特に年次点検や竣工検査などは、体力が必要です。点検するための試験器や携帯用発電機は10kg〜20kg、中には20kgを超えるものもあります。
高圧の電気機器を収納しているキュービクルは、建物によっては屋上に設置してあるため、それらの試験器を屋上まで運ばなければいけません。また、電気の停電・送電のために行う区分開閉器の操作のために電柱に登ることもあります。
点検自体には大きな体力を必要としませんが、点検するまでの荷物の持ち運びなどで体力を使う仕事です。
悪天候時に仕事が増える
台風などの悪天候が発生した際、電気主任技術者を含めて電気業界の仕事は増えることが多いです。というのも、悪天候が生じると停電や設備の絶縁抵抗値の低下につながります。
停電が発生した場合や事業所で電気的な異常が発生した場合は、実際に現場に出動して調査したり復旧作業を行ったりします。
特に絶縁抵抗などは悪天候になると悪くなるものなので、電気主任技術者は悪天候時にこそ仕事が増える職業です。また、天候が良い時でも電気的な異常を生じることはあるので、必要に応じて現場で直接対応を行います。
05.電気主任技術者の3つの魅力
仕事につらさもある電気主任技術者ですが、それでも従事する魅力は十分にあります。実際に筆者が従事して感じた魅力は、次の3つです。
- 需要が無くならない
- 社会への貢献度が高い
- 技術者としてレベルアップできる
それぞれの魅力について詳しく解説します。
需要が無くならない
電気主任技術者は、今後も需要が無くならない仕事です。というのも、電気主任技術者の設置は電気事業法と呼ばれる法律で定められています。
資格を所有していない方は仕事に従事できない仕事なので、電気主任技術者はいわゆる「業務独占資格」に該当するのが特徴です。
また電気は現代社会に必要不可欠な存在なので、今後も電気設備は増加します。既存の電気設備とこれから先に新規設置される電気設備を含めると、電気主任技術者の需要は無くならないと言えるでしょう。
社会への貢献度が高い
先ほどもお話しした通り、電気は現代社会に必要不可欠な存在です。そのため、電気設備の維持・運用・管理のための保安業務を行う電気主任技術者は、社会貢献度が高い仕事と言い切れます。
確かに電気工事士のように目立つ場所で作業する機会は多くありません。しかし、電気主任技術者がいなければ電気設備の維持が難しいのも事実です。
電気主任技術者として働くために必要な電験は、すぐに取得できる資格ではありませんが、保有して現場経験を積むことで社会に必要不可欠な技術者となれるでしょう。
技術者としてレベルアップできる
電気主任技術者は、電気設備の安全を守るためさまざまな知識が求められます。電験で勉強した知識を実際の設備を目にしながら更に深めることが可能です。
加えて、点検する際に必要な知識や試験器の操作など電験では勉強しないことも学べます。現場で経験を積むことで技術者としてレベルアップすることが可能です。
また、電気主任技術者の仕事ではコミュニケーション能力が求められます。仕事で相手する方は電気について詳しくない方がほとんどなので、専門的な知識を分かりやすい言葉で伝える力が必要です。
電気以外の部分でもレベルアップを狙えることも、現場仕事である電気主任技術者の良さと言えるでしょう。
06.まとめ
本記事では、電気主任技術者の概要や人手不足問題について、つらい部分や魅力の両方とあわせて解説しました。
電気主任技術者は、電気設備の保安監督業務を行う仕事です。月次点検や年次点検などを実施して電気設備に異常がないか調査・点検します。
人手不足問題を抱えてはいますが、需要がなくならず社会貢献度が高い仕事であることも事実です。また、現場経験を積んでいくことで技術者としてのレベルアップも狙えるでしょう。
電気業界の中でもおすすめできる仕事なので、電験を保有している方や取得をお考えの方は、ぜひ電気主任技術者として従事することをご検討ください!
CIC日本建設情報センターは電験三種の受験対策短期集中講座をおこなっています。全科目セットの他に、単一科目講座があるので苦手な科目のみ受講することも可能です。
◆この記事を読んだ方へおすすめ↓
【ルーティン】大手電力グループ会社で勤務する電気主任技術者のある1日